ABM(アカウントベースドマーケティング)とインバウンドマーケティングは、どちらもBtoBマーケティングにおいて重要な手法です。両者ともコンテンツを活用し、デジタルツールを用いて顧客との関係構築を図るため、施策レベルでは類似点が多く、混同されてしまうことも。しかし、両者は「ターゲットへのアプローチの起点」において決定的な違いがあります。
本記事では、ABMとインバウンドマーケティングの定義の違いから、具体的なプロセスの差異、自社に適した手法の選び方、そして両者を併用して相乗効果を生み出すための設計方法についてまとめました。
両者の違いを議論する前に、それぞれの定義を明確にします。言葉の定義が曖昧なままでは戦略の選択は不可能です。
ABM(Account Based Marketing)とは、自社にとって価値の高い特定の企業(アカウント)を選定し、その企業に対して戦略的にアプローチを行うマーケティング手法です。
ガートナーの定義によれば、ABMは「特定のアカウントに対する、営業とマーケティングが連携した市場参入(Go-to-Market)戦略」とされます。つまり、狙った企業群に対してリソースを集中投下する点が特徴です。
インバウンドマーケティングは、ブログ、SNS、SEOなどのコンテンツを通じて有益な情報を提供し、見込み客(リード)を惹きつける手法です。HubSpotが提唱するように、「Attract(惹きつける)」「Engage(関係を築く)」「Delight(満足させる)」というプロセスを通じて、顧客が自ら自社を見つけ出すことを目指します。
ABMとインバウンドマーケティングの違いを比較しました。主な相違点は「ターゲットの起点」「施策の粒度」です。
| 比較軸 | インバウンドマーケティング | ABM |
|---|---|---|
| ターゲットの起点 | 未知の見込み客を広く惹きつける (誰が来るかは完全には制御できない) |
狙うべき企業を先に特定する (ターゲット外へのリソースは抑制する) |
| 最適化の解像度 | ペルソナ・セグメント単位 (業種、役職ごとの傾向に合わせる) |
アカウント(企業)単位 (個別の経営課題や組織構造に合わせる) |
| 主な施策 | SEO、ブログ、ホワイトペーパー、SNS (検索行動などからの流入を狙う) |
DM、個別勉強会、手紙、ターゲット広告 (特定企業へのプッシュや関係深化を行う) |
| 体制・連携 | マーケ主導になりやすい (リード獲得までを担当するケースが多い) |
営業とマーケティングの同期が必須 (ターゲット選定から受注まで共同で動く) |
| 主要KPI | PV数、リード獲得数(MQL)、CPA (量の最大化を重視する傾向がある) |
アカウントエンゲージメント、商談化率、LTV (質の向上とパイプライン貢献を重視する) |
インバウンドマーケティングの強みは、課題が顕在化して検索行動をとっているユーザーを効率的に集められる点です。網を広く張ることで、想定していなかった顧客層との接点が生まれる可能性もあります。
ABMは、受注単価が高く、意思決定に関与する人数が多い商材において真価を発揮。ターゲット企業があらかじめ明確であるため、リソースを分散させず、成約確度の高い施策に集中投資できます。単なるリード数ではなく、ターゲット企業内のキーパーソンとの関係性の深さが指標です。
ABMとインバウンドマーケティングでは、実行プロセスにおいても明確な違いがあります。インバウンドがコンテンツ設計から始まるのに対し、ABMはアカウント選定から始まります。
インバウンドマーケティングは、理想の顧客像であるペルソナの設計からスタート。ペルソナが抱える課題を解決するための記事や資料を作成し、SEOやSNSでの露出を通じてWebサイトへの流入を促進します。
フォーム入力によって見込み客の情報を獲得した後は、メールなどで継続的に情報提供を行います。段階的に購買意欲や検討度合いを高めるナーチャリングを行い、商談へとつなげるプロセスが一般的です。
ABMのプロセスは、自社の売上最大化に寄与するターゲット企業の特定から始まります。選定した企業に関しては、組織図や決算情報、導入済みツールなどを徹底的に調査し、企業ごとの実情を深く理解します。
調査で得た情報を基に、決裁権を持つキーパーソンへの接触計画を立案します。手紙や個別勉強会など最適な手段でアプローチを実行し、アカウント単位での関係深化や商談進捗を測定して施策を評価します。
ABMでは、すべてのアカウントに均等にリソースを割くわけではありません。最重要顧客(Tier1)、重要顧客(Tier2)、一般顧客(Tier3)のように階層(Tier)分けを行い、上位のアカウントに対してより個別性の高い施策を実行する運用設計が求められます。
自社の商品特性や市場環境によって、採用すべき手法は異なります。単価、市場の広さ、検討期間を基準に判断してください。
インバウンドマーケティングは、顧客自身が検索によって解決策を探す傾向がある市場に適しています。ターゲット企業の母数が多く、特定の数社に絞り込めない場合や、認知拡大とリード数の確保を最優先したい局面で有効です。
商材の単価が比較的低く、成約数を積み上げる必要があるビジネスモデルでも力を発揮します。幅広い層に網を張り、潜在的なニーズを持つ顧客との接点を効率的に創出したい場合に採用するのが妥当です 。
ABMは、ターゲットとなる企業が明確で、市場における社数が限定されている場合に有効です。受注単価が数百万円から数億円と高く、検討期間が長期にわたる商材において、投資対効果が高まります。
導入決定に関与する関係者が多く、組織全体への働きかけが必要なケースにも適しています。
どちらの手法を選ぶにしても、顧客データの管理基盤(CRM)が整備されていなかったり、営業とマーケティングのゴール(KPI)がバラバラだったりすると成果が出にくい点では共通しています。手法の選定と同時に、社内の連携体制の見直しも必要です。
ABMとインバウンドマーケティングは対立する概念ではなく、相互に補完しあう関係です。両者を組み合わせる「ハイブリッド型」の運用を行うことで、全体の効率を高めることができます。
代表的な併用パターンを見て行きましょう。
インバウンド施策で広くリードを獲得し、その中から自社のターゲット条件に合致する有望企業を抽出します。抽出された企業に対してのみ、ABMのフローに切り替えて個別のアプローチを行います。「量はインバウンド、質はABM」といった役割分担です。
ABM対象となる特定のアカウントを攻略するために作成した深掘り記事や提案資料は、業界特有の課題を鋭く捉えているケースも多くあります。これらを一般てWebコンテンツとして公開すれば、インバウンド施策の質を高めることが可能です。
展示会や個別の勉強会で接点を持った重要顧客に対し、商談化するまでの期間はMAツールを用いたインバウンドマーケティング方式で、定期的にメールマガジンやホワイトペーパーを送付。人手がかる接点作りはABM的に行い、長期的な関係維持はインバウンドの仕組みで自動化します。
ABMとインバウンドマーケティングの違いは、アプローチの起点にあります。インバウンドは「見つけてもらう」手法、ABMは「組織的に攻略する」手法です。
どちらか一方だけが正解というわけではありません。自社の商材単価、ターゲット市場の広さ、営業リソースの状況を鑑みて選択することが重要。また、多くのBtoB企業では、インバウンドで広範囲のニーズを拾いつつ、最重要顧客にはABMで集中アプローチを行うハイブリッドな運用が現実的な解となるでしょう。
ABMツールと一口に言っても、その活用方法は営業部門とマーケティング部門とで異なります。
ここでは、インバウンド営業・アウトバウンド営業それぞれの特性に応じて、アプローチ可能なフェーズや手法に違いのあるツールをご紹介いたします。ツール選びの参考にしてください。