ABX(アカウントベースドエクスペリエンス/Account-Based Experience)とは、特定のターゲットアカウントに対して、マーケティング・営業・カスタマーサクセスといったすべての顧客接点で一貫したパーソナライズド体験を提供する、部門横断型の戦略です。
従来のABM(アカウントベースドマーケティング)が価値の高い企業を絞り込んでアプローチする点に主眼を置いていたのに対し、ABXはその考え方を発展させ、アカウント内の個々の意思決定者や関係者にまで最適化された体験を届けます。顧客のライフサイクル全体を通じて持続的な関係を築き、顧客満足度と長期的な成果の最大化を目指す、より包括的なアプローチだといえます。
ABXとABMは「価値の高いアカウントに集中する」という土台を共有しつつ、対象範囲・目的・評価指標の3点で明確に異なります。ここでは「対象部門と戦略の焦点」「目的・評価指標」の2つの観点から、両者の違いを整理します。
ABMは主にマーケティング部門を中心とし、キャンペーンやリーチによる獲得フェーズに焦点を当てます。一方ABXは、マーケティング・営業・カスタマーサクセスの全体を巻き込み、顧客体験そのものを軸に据える点が特徴です。
時間軸も、ABMが獲得フェーズ中心であるのに対し、ABXは獲得から拡大、契約更新までの全ライフサイクルをカバーします。部門間の関わり方も、情報共有レベルにとどまるABMに対し、ABXは戦略・実行・指標まで統合する点が大きな違いです。
目的の面では、ABMがターゲットアカウントからの商談創出・受注を主眼とするのに対し、ABXはLTV(顧客生涯価値)の最大化や顧客ロイヤルティの向上を目指します。そのため評価指標も異なり、ABMではパイプライン創出額・商談化率・受注率といった獲得系の指標が中心となります。
ABXでは、これらに加えて顧客満足度(CSAT)やNPS、契約更新率、アップセル・クロスセル率など、契約後の関係性を測る指標が重視されます。追う数字が変われば、組織の動き方も変わる点に注意が必要です。
ABXが注目される最大の理由は、BtoBの購買行動が大きく変化したことにあります。デジタル化の進展により、購買担当者は営業担当者からの情報を待つのではなく、自らインターネットで検索し、専門家の意見や業界情報をもとに比較検討を進めるようになりました。
こうした顧客主導の購買において、マーケティング・営業・カスタマーサクセスが個別の指標を追い、分断されたアプローチを続けると、一貫性のない体験が顧客の不信感を招きかねません。
製品や価格での差別化が難しくなった現代では、顧客体験(CX)そのものが競争力を左右する要素となっています。組織が一体となって一貫した価値を提供するABXは、選ばれ続けるための持続可能な競争優位を生み出す戦略として重要性を増しています。
ABXに取り組む主なメリットは、大きく4つに整理できます。第一に、ターゲットアカウントへの最適化されたアプローチです。アカウントごとのニーズや課題を深く理解し、関連性の高いメッセージを届けることで、エンゲージメントの質が高まります。
第二に、営業とマーケティングの連携強化です。両チームが一貫したメッセージと体験を提供することで、各部門の努力が相乗効果を生みます。
第三に、ROIの向上と顧客獲得コストの削減です。ターゲットを絞ることで無駄な広告支出を抑え、効果的なリード獲得につながります。
第四に、顧客体験の向上です。ニーズに合った情報やサポートを受けた顧客は満足度が高まり、ブランドへの忠誠心や再購入率の向上が期待できます。これらは競争の激しい市場で優位性を確立する土台となります。
ABXの導入は、次の3つのステップで進めると効果的です。
まずは信頼できるデータ基盤の構築から始めます。SFA・CRM・MAに分散した顧客データを一元管理し、顧客の解像度を高めます。そのうえで、リード数や短期売上だけでなく、LTVや影響力といった戦略的視点でICP(理想的な顧客プロファイル)を定義し、価値の高いアカウントを特定します。
マーケティングは課題解決に直結するコンテンツを提供し、営業はエンゲージメント情報を活用して顧客に寄り添った提案を行い、カスタマーサクセスは受注後の満足度とLTVを最大化します。部門間の壁を取り払い、リアルタイムで情報を共有することが鍵です。
アカウント単位のエンゲージメント指標やビジネス成果指標を複合的に追跡し、データに基づいてPDCAを回しながら戦略を継続的に改善します。
ABXを効果的に実践するには、適切なテクノロジーの活用が欠かせません。基盤となるのは、顧客データの収集・分析を担うCRM(顧客関係管理)システムと、施策を自動化するマーケティングオートメーションツールです。
加えて、パーソナライズされた体験設計を支えるデータ分析ツールや、部門横断での情報共有を目指す仕組みが重要になります。ツール選定時のポイントは4つあります。
第一に、自社のビジネスニーズと目標を明確に理解すること。第二に、既存システムとシームレスに統合できる「統合性」。第三に、事業の成長に対応できる「スケーラビリティ」。第四に、チーム全員が使いこなせる「ユーザーフレンドリー」であることです。
単一ツールで全てを賄うのではなく、自社の状況に合わせて複数のツールを連携させる視点が成功につながります。
なお、国内で利用可能な代表的なツールとしては、ターゲット選定を支援する「Speeda(旧FORCAS)」、顧客データ統合の「uSonar」、インテントデータを活用する「Sales Marker」、MAの「Adobe Marketo Engage」、SFA/CRMの「Salesforce(Sales Cloud)」などが挙げられます。また、CRM・MA・営業・CSが統合された「HubSpot」も、部門横断のデータ連携を行う基盤として活用されています。
引用元:マーケトランク(ProFuture)(https://www.profuture.co.jp/mk/column/what-is-abx)/StartLink(https://start-link.jp/hubspot-ai/btob-marketing/ai-marketing-trends/abx-account-based-experience)
具体的な企業事例から、ABM・ABXの効果を確認しましょう。電子部品メーカーの株式会社村田製作所は、MAツール「Marketo」を導入してABM戦略を展開しました。ターゲットアカウントが興味を持つコンテンツをメールで直接届けるアプローチにより、業界平均を大きく上回る36%のクリック率を達成したとされています。
引用元:URUTEQ(https://uruteq.logly.co.jp/blog/abx/marketing-abm-abx/)
また、ソフトウェア企業のAdobeは、顧客データプラットフォームを活用して行動や好みを深く理解し、パーソナライズされた体験を提供するABX戦略により、顧客エンゲージメントと顧客保持率を高めています。
引用元:URUTEQ(https://uruteq.logly.co.jp/blog/abx/marketing-abm-abx/)
ABXは、ABMを「マーケティング施策」から「全社的な顧客体験戦略」へと進化させたアプローチです。マーケティング・営業・カスタマーサクセスが一体となり、獲得から更新まで一貫した体験を提供することで、LTVの最大化と競争優位の確立を目指します。
成功の鍵は、部門横断のデータ統合と連携設計にあります。本記事で紹介したステップとツールを参考に、まずは現状把握から始めてみてください。
ABMツールと一口に言っても、その活用方法は営業部門とマーケティング部門とで異なります。
ここでは、インバウンド営業・アウトバウンド営業それぞれの特性に応じて、アプローチ可能なフェーズや手法に違いのあるツールをご紹介いたします。ツール選びの参考にしてください。